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2009.10.21
[インタビュー]
natural TIFF部門『人魚と潜水夫』メルセデス・モンカーダ・ロドリゲス監督インタビュー

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『人魚と潜水夫』 
メルセデス・モンカーダ・ロドリゲス監督

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――ミスキート族を撮ろうと思ったきっかけは?

私自身はニカラグア人ハーフなのですが、「ニカラグアの顔」というものを完全なものにしたかったのです。世界の人々はニカラグアに対して、内戦の国、地震やハリケーンがよく発生する、暴力が蔓延している、スペインの植民地だったからスペイン語を話す、といった限定されたイメージをもっていると思います。本当のニカラグアは、多言語・多文化の国です。世界にあまり知られていないニカラグアの姿を撮り、伝えたかったのです。


――ニカラグアにおける、ミスキート族の現状(政治的・経済的)は?

ミスキートの人々は、何世紀もの間、孤立した生活をしてきました。ニカラグアがある南米大陸の大西洋岸はジャングル地帯で、幹線道路も整備されていなく、他の地域からのアクセスが難しい地域です。1979年の革命で、サンディニスタ戦線が政権をとりましたが、彼らのスローガン「農民・労働者を権力の座に」という考え方に、ミスキートの人々も組み込まれていきました。サンディニスタ政権の思想は、国民の格差の是正、つまり均質化だったわけです。先住民という立場への配慮は一切ありませんでした。先住民がどういう文化や生活を営んでいるのかを知らずに、均質化を推し進めようとしました。
そこでミスキートの人々は、抵抗運動を始めます。その大部分がコントラ(反革命派)に入りました。つまり親米派です。その時期が、最も政治的に厳しい時期でした。
 いずれにせよ、革新政権であっても、保守政権であっても、ミスキート族は常にカヤの外に置かれ続けるという悲しい歴史をたどってきました。


――王制の存在や、独立宣言(2009年)などは、自民族への強いアイデンティティの表れですか?

確かに王は存在していましたし、その下で結束していたのですが、それはイギリスに影響を受けた統治体制でした。イギリスは17~18世紀にかけて大西洋岸を植民地化しようという意図があり、一方でスペインも同様に虎視眈々と狙っていました。ミスキート族はスペインから自らを守るために、イギリスの統治体制をコピーして、王制をしいたのです。
1980年代に入り、多くのミスキートの人々がコントラに属し、政府と対立しました。しかし、いつの時代においても、ミスキート族は、その時の政府と紛争を起こしてきました。それは彼らのアイデンティティの確立を求めての行動だったと思います。そんな中、80年代から90年代の終わりにかけて、「自治法」の導入が提唱されるようになりました。大西洋岸の先住民の自治を守り、ニカラグアを多文化の国と認めよう、という法案です。ミスキート族のリーダーたちは、この自治法の実現を目指して、歴代の政権とずっと交渉を続けてきたのですが、いまだ実現には至っていません。そのうえで行った「独立宣言」です。実際的な独立というよりも、自治やアイデンティティが認められていない、というフラストレーションの表れだと思います。


――映画の冒頭で語られる、「人魚に触られた潜水夫は海亀になる」という物語は、ミスキート族に伝わる神話ですか?

ミスキート族の文化では、人魚は水の女神であり、触られると亀になるという言い伝えがあります。撮影中に、潜水夫の葬儀に立ち会いましたが、その時の参列者が「あの人は人魚に触られたんだ」と話していたんです。とても美しい話だと思い、そこから本作の物語を書きました。16世紀くらいからミスキート族は存在していると言われていますが、亀は当時から彼らの重要なタンパク源でした。経済的にも、食文化的にも、亀は非常に重要な存在です。人魚と潜水夫と亀という3つの要素をまとめることで、ミスキート族の宇宙観を表せるのではと考えました。


――亀の言い伝えから始まり、葬儀、出産、そして最後に潜水夫の死と人魚の伝説へと、輪廻するようなストーリー構成は、ミスキート族の死生観を表しているのですか?

ミスキート族には、輪廻転生のような考え方はありません。しかし私は、主人公シンバッドを永遠に生まれ変わるような存在として描きました。ミスキートの人々は17世紀頃からずっと潜水の仕事に従事しています。最初は、沈んだ海賊船から財宝を引き揚げる仕事、現在は、海賊行為を行っているような多国籍企業によるロブスター漁の仕事です。いつも溺れて死んでしまう、という運命にさらされています。潜りながら、死に続け、生まれ変わり続ける存在として、ミスキートの人々を描きたかったのです。


――そのストーリーは、撮影前から構想していた?

撮影は2段階に分かれます。1段階目は、いろんな生活風景の断片を撮影しました。そして、潜水夫の葬儀からストーリーを立ち上げ、2段階目ではそれに沿った撮影をしていきました。撮影期間は、全部合わせると約3ヶ月間です。
「人魚に触られると死ぬ」という言い伝えを聞いて、私が人魚の立場で話してみようと思いました。「実は違うのよ。潜水夫たちは私に恋をしたから海に沈んだの。私は死なせるつもりはなかったの。」とね。それで人魚の語りをナレーションにしました。ある意味、この作品は「人魚の汚名挽回」でもあるのです(笑)。


――製作期間はどのくらい?

トータルで約3年です。その間に、さまざまなことが起こりました。例えば、ハリケーンの来襲。この災害は、映画にも登場しますが、シンバッドが住んでいた場所が流されて、転居せざるをえなくなり、潜水夫になる、という物語の展開に使われています。自然現象が、物語に大きな変化を与えてくれたのです。私自身は妊娠、出産を経験しました。今、2歳半の息子とともに、映画祭での上映に立ち会えました。

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愛息マルティン君と一緒に


聞き手 川喜多綾子

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