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2009.10.25
[インタビュー]
natural TIFF部門『もうひとつの世界で』ジョセフ・ペカン監督インタビュー

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本作は、イタリア・アルプスのグラン・パラディーゾ国立公園の管理員、ダリオの日常を追ったドキュメンタリーである。美しい自然の中で営まれる彼の生活は、人間と文明の関係を考えさせられるものだった。

『もうひとつの世界で』
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ジョセフ・ペカン監督


――国立公園で野生のヤギを管理する主人公に焦点をあてようと思ったのは、どうしてでしょうか。

舞台となった国立公園から自宅は40kmくらいしか離れていません。こういう国立公園を扱ったドキュメンタリーは数多くありますが、その多くは動物が主人公です。私は人間、そして人間と自然の関わりについての映画を撮りたいと考えたのです。
それはこの「natural TIFF」の考えに合っているように思うんです。風景ももちろん美しいのですが、それ以上に人間と自然がどう関わっているのかを描きたかったのです。あの自然の中での暮らしというのは、何日も山に籠もらなければならない孤独な生活です。そういう状況で、どうやってその孤独を乗り越えるのか。ですから、映画のテンポは必然的にゆっくりで、沈黙のシーンが多くなり、その中で、生と死や、明と暗、動と静といったコントラストをからめていきました。普通には入ることができない領域で、主人公は生活していて、そういう意味で別の世界、もうひとつの世界というタイトルをつけたわけです。


――娘と住む家に貼ってある標語「人生は踏み出さなければ始まらない。挑戦しては立ち止まり、人は成長する」は、冒頭でも語られていますね。

あの標語は、監視員仲間の一人がインターネットで見つけて貼り出したものなんです。通常はああいう手法はとりません。引用はインテリっぽい感じがして好きではないからです。今回に関しては、彼ら自身がネットで見つけた言葉を貼ったということは、彼ら自身の生活、考え方を反映しているということだと思いました。
人生は動きと待ちがあります。現代の都会人の生活では、動いてばかりいて、待っている時間というのはほとんどないですね。でも彼らの生活の中では、待ちの時間が非常に長い。自然のリズムと都会のリズムが違うということや、自然の中ではそのバランスを自覚しないと生きることができないということを、あの言葉は表していると思い、標語を引用しました。


――シャモア(カモシカ)の角を洗っていましたが、何に使うのですか? 

みんなに聞かれる質問ですが、確かに映画を観ているだけでは分からないですね(笑)。本当は謎にしておきたいところですが、部分的には研究目的で使われ、他は売買されます。ですので、倉庫に積まれているわけです。なぜ謎にしたいかというと、あれは死の象徴であり、その前のシーンでは彼らを救っている、そのコントラストを出したかったのです。


――ドキュメンタリーを撮るにあたって、対象を選びそのハプニングを追いかけて撮るのか、ある程度イメージを構築してそれに沿って撮るのか、どちらかのタイプですか?

私は後者の方だと思います。まず自分のアイデアがあり、それを追求していきます。自分が選んだ人物で、自分のイメージを描くわけですが、可能性に対しては、私の物語は開かれていて、すべてがあらかじめ書かれているというわけではないのです。出発点がどこか、到達点をどこに置くか、その中で自分が何を言いたいのかということははっきりしているのですが、ある意味ワーク・イン・プログレスで、製作中は、あらゆる可能性を求めています。本作には、父と娘のつながりが出てきます。彼らは携帯電話やインターネットで繋がっていますが、それはある意味で表面的なつながりで、でも、それがなければ彼らは本当に孤独になるわけです。


――娘と父親の裏にある物語も想像させられるような印象でした。

今回は、国立公園を撮る作品だったので、その物語はほんのさわりだけでしかないのですが、テクノロジーの意味や、自然の重要性も考えなければいけませんし、直接のコミュニケーションが不可欠だということが言いたかったのです。日本は、テクノロジーは基本ですし力になっていますが、自然のことも忘れてはいけないはずです。昨日、日本のテレビで富士山をみたらとても美しかった。一方で、ホテルの窓からは東京の夜景が見える。富士山はとても美しいのだけれど、TVの中でしか経験していない。だから、それは実物ではないということを感じました。


インタビュー・構成 小出幸子

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