Home > ニュース > 第22回東京国際映画祭 審査員総評
ニュース一覧へ 前のページへ戻る previous next
2009.12.11
[更新/お知らせ]
第22回東京国際映画祭 審査員総評

『イースタン・プレイ』が「コンペティション」部門3冠受賞を果たし、幕を閉じた第22回東京国際映画祭。

「TOYOTA Earth Grand Prix」、「アジアの風」部門、「日本映画・ある視点」部門の各賞審査員を務めた皆さまから、各部門の総評をいただきました。

是非、ご一読ください。

・「TOYOTA Earth Grand Prix」総評
・「アジアの風」総評:「アジアの風」部門 審査委員長 上野昂志
・「日本映画・ある視点」部門:「日本映画・ある視点」部門 審査委員長 関口裕子
※クリックすると各総評がご覧いただけます。

第22回東京国際映画祭 受賞結果



第22回東京国際映画祭・「TOYOTA Earth Grand Prix」総評:
「TOYOTA Earth Grand Prix」の授賞について

東京国際映画祭の上映部門の中で、地球環境保護や自然と人間の共生を掲げてスタートした「natural TIFF」部門には、2年目の今年も世界の各国と地域から見応えのあるドラマとドキュメンタリー作品が揃いました。このテーマにそって製作された他部門の作品をも対象として、慎重に検討を行なった結果、審査委員3人の総意として、『WOLF 狼』(ニコラ・ヴァニエ監督/フランス)に「TOYOTA Earth Grad Prix」の授賞が決まりました。厳しいシベリアの山中で暮らし、将来は一族の長となることを約束されている少年が、天敵でもある狼と戦う毎日を過ごすうちに傷ついた狼の母子と出会い、人間と変らぬ親子の情を目にして心動かし、一族の掟を破って狼を守る、という物語です。演出、演技、そしてカメラワーク、すべてが一体となって観る人に迫ってくる、力に満ちた映画で、まさに「大自然との共生」を感動的に描いており、この賞の趣旨にふさわしい出来栄えでした。受賞の知らせを受けたヴァニエ監督は、大変に喜んで授賞式用にビデオメッセージを寄せてくれましたが、来日はなりませんでした。後日談になりますが、本人はガソリンをまき散らして地球を汚している飛行機には乗らない、との信念の人であるようです。
他にも、中米ニカラグアの海の民の伝説を基にした寓話劇『人魚と潜水夫』(メルセデス・モンカーダ・ロドリゲス監督/メキシコ=スペイン)も、忘れがたい魅力ある作品であったことを付け加えておきます。



第22回東京国際映画祭・「アジアの風」総評:
「アジアの風」部門 審査委員長 上野昂志

「アジアの風」は、今回もまた、北東アジアから中東までをも含む広大な地域から、バラエティに富む作品群が集まった。作り手のキャリアも、新人からベテランまで、作品傾向も、実験的なものからエンタテインメントまでと多様であった。
それら20作品の中から、「最優秀アジア映画賞」に選ばれたのは、ウニー・ルコント監督の『旅人』(韓国=フランス)である。
本作は、監督の自伝的な物語のようだが、孤児院に置き去られた少女の孤独を、抑制の効いた語り口で浮かび上がらせた手腕は、新人とは思えぬほど洗練されていた。それは、自転車を漕ぐ父親の背にしがみつくようにしていた少女が、それと知らぬまま孤児院に預けられるまでの導入部で、服を買って貰ったり、食事をする場面でも、父親の顔を見せない周到な演出によく現れているといえよう。
続くスペシャル・メンションとして挙げるのは、マフスン・クルムズギュル監督の『私は太陽を見た』(トルコ)である。
トルコのクルド人一族が、内戦によって住み慣れた土地を捨て、イスタンブールに移住し、その一部はノルウェーにまで行くという苦難の物語を描いた本作は、編集や音楽の使い方などは、いささか古風だったが、たんなる難民の物語にとどまらず、父権的な社会におけるジェンダーの問題なども盛り込んだ、意欲に溢れる労作であった。 
その他、審査会の席上で、話題に上ったものとしては、マズィヤール・ミーリー監督の『法の書』(イラン)、シャフラム・アリーディ監督の『風のささやき』(イラン)などがあり、さらには大ベテラン、アッバス・キアロスタミ監督の映画論的な『シーリーン』(イラン)があった。
 また、これらとは別に、昨年、急逝されたヤスミン・アフマド監督の遺作『タレンタイム』(マレーシア)は、昨年の『ムアラフ 改心』(マレーシア)に引き続き、処女作以来の家族を中心にした物語から、より広い世界へと踏み出したことを証す、滋味溢れる作品だった。それだけに彼女の死は惜しみてあまりあるが、その思いとともに、これまでの全作品がTIFFで上映されてきたことに鑑み、ヤスミン・アフマド監督に、「アジアの風特別功労賞」が贈られることになった。



第22回東京国際映画祭・「日本映画・ある視点」総評:
「日本映画・ある視点」部門 審査委員長 関口裕子

第6回となる「日本映画・ある視点」は、日本という国の多様性を大きな網でざっくり掬って見せたラインナップだった。網の目は極めて大きく、傾向としてそこから漏れてしまった作品もある。だが、ここに集められた作品の個性は、ある意味見られることを拒否したような特異なものから、果敢なる映像挑戦や、絵画、書、音楽などの文化ジャンルとのハーモニー、そして作家の迷いを赤裸々に見せるものまで、まぎれもなく“現代日本”であった。
今回の選考は、その多様性を“海外で見せる”ことをポイントにした。他作品と一緒に見た時に引き立つ、比較の文化や個性ではなく、単独で光る個性と未来への可能性が決め手となった。
作品賞は1作品。賞を増やすことは考えなかった。そしてその賞を、あるシンガーソングライターの路上ライブを確信犯的長まわしで捉えた『ライブテープ』の松江哲明監督に贈った。


作品評一覧:

『OUR BRIEF ETERNITY』
監督:福島拓哉
【評】
草野康太の存在だけが、映画と現実(観客)を結びつけていた。この映画は、あるコミュニティを見せている。彼らの会話は、このコミュニティのなかで完結している。観客は、興味と理解を示し、共有したいという意志を持たなければ、映画から拒絶されてしまう。しかし、この映画の持つその感覚も、極めて現在の日本らしい。


『君と歩こう』
監督:石井裕也
【評】
軽妙なテンポと音楽でつづられるウェルメイドな作品。都会に出てくるまでの描かれ方は素晴らしい。高校の同級生の性と、現実の女性と暮らしている主人公の性の対比の曖昧さが、たぶん監督の意図と異なる効果をもたらしてしまっている。限りなく未来の気になる作家という共通意見。


『ジャングルハウス3ガス 林家三平』
監督:水谷俊之
【評】
映画の、というより、故良くも悪くも故林家三平師匠の魅力にあふれたドキュメンタリー。日本で最初のテレビ発の喜劇人となった経緯などもわかる反面、客観的かつ批評的な視点にかけ、海老名家のファミリー・ムービーのようでもある。記録としては重要ではあるが。


『つむじ風食堂の夜』
監督:篠原哲雄
【評】
白い皿の上に積もる雪。やがてそれはしんしんと降り積もり、街角の一軒のレストランとなっていく。大人のファンタジーという世界観を作ってやろうという気概が、アングルや題字などから伝わってくる作品。窓が異次元へのスクリーンとなった映像が美しい。ひと時の休息を与えてくれる極上のファンタジーという意味での安定感はあるが、現代の日本を写し取った、というような実験的な試みにはやや乏しい。それを求めるのもお門違いなのだが。


『掌の小説』
監督:坪川拓史、三宅伸行、岸本 司、高橋雄弥
【評】
川端康成をやろうという意気込みは買うが、時代設定を当時にしたことが裏目に出た。低予算で時代観を出すことや、現代の若い女優や俳優に当時の空気をまとわせることの難しさを、観客に思い知らせる結果となった。特に「有難う」は清水宏の『有りがたうさん』(1936年製作)があるので、どうしても比較してしまう。現代に置き換えればよかったのではないかというのが、全員の意見。


『TOCHKA』
監督:松村浩行
【評】
実験的かつ映画的と高評価。藤田陽子、菅田俊の二人芝居や、トーチカの窓をスクリーンに見立てた演出も素晴らしい。なにより菅田が火を放つまでの長回しの語り口の重厚さに評価が集中したが、整音やフィルムの処理に、若干、監督の意図しきれなかったものが残った節があり、グランプリとはならなかった。


『真幸くあらば』
監督:御徒町 凧
【評】
罪が結びつけた男女。彼らの感情の動きを大きなアクションやエピソードもないところで演じ上げた、尾野真千子と新人・久保田将至が素晴らしいという評価。牢獄とマンションの自室という距離を超えて愛を交わすシーンのせつなさは、映画史に残る。ただし、音楽は鳴らしすぎ。また概念的な部分がカタルシスではなく、古さを感じさせた。


『ライブテープ』
監督:松江哲明
【評】
一見、無造作に撮影テープを回し続けたように見せながら、確信犯的かつ意図的に、作品を作り上げた松江監督の辣腕と細やかな演出力を高く評価し、作品賞と全会一致で決定。被写体との距離の取り方、人間という存在の肯定の仕方、テーマの見せ方など、すみずみに才能が宿る。前野健太の歌声の持つ生命力が、映画と共鳴し、輝かせる。

previous next
KEIRIN.JP本映画祭は、競輪の補助を受けて開催します。
未来をつくるケイリンの補助事業「RING!RING!プロジェクト」
第21回 東京国際映画祭(2008年度)