2009.10.25
[イベントレポート]
「トロフィーのために新しいカバンを買わないと」『イースタン・プレイ』監督 東京 サクラ グランプリ受賞者会見
カメン・カレフ監督(左)とプロデューサーのステファン・ピリョフさん
第22回東京国際映画祭“東京 サクラ グランプリ”には、カメン・カレフ監督のブルガリア映画『イースタン・プレイ』が見事に輝きました。同作は、東京 サクラ グランプリだけでなく、最優秀監督賞と最優秀男優賞(フリスト・フリストフさん)の3冠を受賞。第18回の『雪に願うこと』(監督:根岸吉太郎)以来となる快挙を成し遂げました。受賞の喜びに包まれて会見場に到着したカレフ監督は、「(トロフィーは)重いね。『持って帰るには新しいカバンを買わないといけないな』って話していたところなんです」とトロフィーを手にニコニコ顔。続いて到着したプロデューサーのステファン・ピリョフさんとお2人で会見に臨みました。
同作は、アルコールに依存していた画家と彼の弟の関係を軸に、個人の魂の置き場所を見つめていくという人間の本質に迫ったドラマ。現実のブルガリア社会を写し取ったその内容に、ブルガリアとトルコとの軋轢や差別についての質問が飛びましたが、カレフ監督は「悲しいことに、ブルガリアにそういった差別や偏見があるのは事実です。ただ私が感じているのは、どうして偏見を持ち続けるのかといういこと。もっとオープンになって前に進もうとするべきだと思います」と回答。「そこには、偏見を助長するような政治的な意図もあるのかもしれません。でも自分の心を信じて、他人の意見に惑わされずに偏見をなくして欲しいと思います」と続けました。
カレフ監督に大きな影響を与え、『イースタン・プレイ』を製作させるきっかけを与えたのが、最優秀男優賞に輝いた主演のフリストフさん。残念にも、作品の完成直前に急逝してしまった彼の受賞について、監督は「彼の受賞はとてもショックでした」と心情を打ち明けました。なぜなら、「そもそも私は賞というものは、いま活動していることの今後の励みとして与えられるものだと思っていた」から。しかしながら、「亡くなった方の思い出を分かち合う、彼の人生を振り返るための賞なのかな……と感銘を受けています」と話しました。
「撮影が終了して、小さなノートパソコンで編集を始めましたが、途中で資金が尽きてしまった。その後スウェーデンで共同プロデューサーを見つけて映画は完成しましたが、その時が一番孤独でした」と製作の苦労を振り返ったカレフ監督。「どのようにして作品を広く世界に観てもらうかを考えたときに、カンヌ、サラエボ、東京の3つの映画祭を想定しました。(東京 サクラ グランプリに選ばれたのは)正直に真実を描いたからだと思います。フリストフが経験したことを忠実に、彼の人生に対する姿勢を描きましたが、家族や差別、そして薬物依存……それらはきっと、すべての人々が抱えている共通のものなんだと思います」と、受賞の理由を自己分析しました。
©Waterfront Film, The Chimney Pot, Film I Väst AB
次回作は「2010年5月に、また新しい手法で、ある若い男が自己発見をしていく物語を撮ります」というカレフ監督。TIFFからまた、世界に飛躍する新しい才能が生まれました。
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