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2009.10.25
[イベントレポート]
今後の映画祭へ向けて熱い提言 アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ国際審査委員長会見

『イースタン・プレイ』の3冠で幕を閉じた第22回東京国際映画祭。受賞者会見の最後にはアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ国際審査委員長が登場し、東京 サクラ グランプリになぜ『イースタン・プレイ』を選出したのか? そして、映画祭が持つ意味について、総評を述べました。

イニャリトゥ国際審査委員長

「今回私が提案したのは、“審査してやろう”という検閲官のような態度ではなく、観客と同じ立場になって作品を観ようということでした。観ていると腹にグッとくるというか、感情をぶつけられるような作品。本当に自分の心に留まった、何かを考えさせられる作品……私にとってはまさに『イースタン・プレイ』がそういう作品だったのです」

記者から「なぜ賞が同作に集中したのか? 賞を分けようという議論はなかったのか?」という問いには、「決して他の作品が劣っていたということではなく、まさに『イースタン・プレイ』が際立っていたんです。5つあった賞のうち、4賞が本当に満場一致で決まりました」と回答。

「例え話ですが、対岸の陸地を目指して大西洋を出発した船が、途中まで順調に進んでいたはずなのに、最終的にはなぜか陸地にたどり着けない、ということがあります。今回は、『イースタン・プレイ』だけがきちんとたどり着けた。監督が見せたいと込めたテーマがきちんと機能して、その表現が美しさへとつながっているんです。映画のリアリティというのは、単に現実をそのまま映すだけではなくて、真実性を見せていなければダメだと考えています。
(この作品は)若者を取り巻く複雑な現実を描きながら、最後には人生の輝き、まだ希望が残っているということを指し示しています。主演のフリストフさんもきっと、天国のどこかでよかったと考えていると思います」と、東京 サクラ グランプリ選出の理由を説明しました。

『イースタン・プレイ』カメン・カレフ監督

そして、イニャリトゥ審査委員長は、「10日間に観た15本を振り返りながら思ったことです」と断りながら、現在の映画を取り巻く業界の状況と映画祭の意義、そして今後のTIFFについての提言を述べました。

「昨今の映画を取り巻く状況は、ますます苦しくなっていると言わざるを得ません。それは経済的な問題はもちろんですが、映画作りが極端なもの──高額を投じた巨大プロジェクトか、絶望的に予算のない小規模作品のどちらかしかないという状況になっているんです。
経済的な危機に加えて、フランチャイズ化された超大作=いわゆるヒーロー映画やバイオレンス映画によって、モラルや芸術までが危機を迎えています。そんな腐敗した中での唯一のレジスタンスが映画祭であり、唯一価値のある期間と言えるのではないでしょうか?
気の毒なのは観客です。真に価値のある映画が観られるのは、その一時的に“展示される”期間しかないのですから。映画はテレビの延長ではないんです。レーティングや興行収入を気にする作品が多すぎます。映画とはやはり、人間の感情を伝えるものであるべきです。
映画祭は、こうした問題に対する解決方法を模索していく場でもあります。単に7日や10日間だけの問題ではありません。1ヵ月や2ヵ月間、賞を獲った作品を上映することで、口コミで認知が広がるはず。TIFFにはそういう試みをリードする存在になっていって欲しい。それが映画祭の役割なのです」

『21グラム』『バベル』ほか、人間の本質に迫る作品を生み出してきただけに、イニャリトゥ審査委員長が発するメッセージは熱く硬派であり、そして真摯。会場に集まった記者、カメラマンを圧倒する余韻とともに、映画祭は終了を迎えました。

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